2026/09/11
大きな家より、豊かな家を。
伊礼智先生と堀部安嗣先生から学ぶ、これからの住まい
家を建てようとするとき、多くの人が最初に考えるのは「何坪くらいの家にしようか」ということかもしれません。
リビングは何畳ほしい。
子ども部屋は一人ひとつ。
収納はたくさんほしい。
できれば、広い家にしたい。
もちろん、家族にとって必要な広さはあります。
けれど、家は大きければ大きいほど豊かになるのでしょうか。
私たちは、そうではないと考えています。
住宅を考えるうえで大切なのは、面積そのものではなく、その限られた面積の中に、どれだけ豊かな暮らしをつくることができるか。
そのことを考えるとき、私たちは建築家・伊礼智先生と、堀部安嗣先生のお二人の住宅に対する考え方から、多くのことを学ぶことができます。
「小さくする」のではなく、「小さくても豊かにする」
伊礼智先生の住宅設計を語るうえで、よく知られているのが「小さな家で豊かに暮らす」という考え方です。
伊礼先生は、住宅設計を「斬新な形をつくること」ではなく、心地よい空間や、住まい手が楽しんで暮らせる場所を考えることだとされています。
これは、とても大切な視点だと思います。
家づくりでは、どうしても「広さ」が価値として見えやすいからです。
30坪より35坪。
35坪より40坪。
数字が大きくなれば、なんとなく豊かになったように感じます。
でも、その5坪、10坪を増やすために、素材や家具、庭、断熱、建具など、暮らしの質を支える部分を削ってしまったらどうでしょう。
伊礼先生が提案する「小さく豊かに暮らす」という考え方は、単純に家を小さくすることではありません。
限られた予算と面積を、どこに使うのか。
広さだけを追い求めるのではなく、必要な面積を見極め、その分、素材や性能、家具、庭などにお金を振り向ける。
そうすることで、家そのものの質を高めていく。
「小さいから仕方がない」のではなく、あえて大きくしないことで、豊かさをつくる。
そこに、小さな家の大きな可能性があります。
家は「家族4人」のためだけにつくるものではない
もう一つ、私たちが大切にしたいのが、堀部安嗣先生の考える「ほどよい住まいの大きさ」です。
堀部先生は、住宅について「一人でも寂しくなく、家族といても窮屈でない」住まいのあり方を考えています。
考えてみれば、家族4人がずっと4人で暮らす時間は、人生の中では意外と短いものです。
子どもは成長し、やがて家を出ていく。
夫婦二人の暮らしになり、いつか一人になるかもしれない。
だからこそ、家を「家族が最大人数になった瞬間」に合わせて大きくつくりすぎるのではなく、人生の長い時間を通して、ちょうどよく暮らせる大きさを考えることが大切なのだと思います。
広すぎないから、家全体に目が届く。
少し歩けば、家族の気配を感じられる。
一人になったときにも、家に取り残されたような感覚にならない。
そして家族が集まったときには、窮屈ではない。
その「ちょうどよさ」を探すことも、住宅設計の大切な仕事です。
家の豊かさは、部屋の数だけでは決まらない
では、小さな家でどうやって豊かに暮らすのでしょう。
その答えの一つが、「居場所を増やす」ことだと思います。
家には、必ずしも「部屋」がたくさん必要なわけではありません。
窓辺に椅子を置いて、外を眺める場所。
朝、光が気持ちよく入る場所。
本を読む小さな場所。
子どもが宿題をする場所。
夕方、家族が自然と集まる場所。
一人で静かに過ごせる場所。
同じ一つの空間でも、時間や季節によって違う使い方ができれば、暮らしは大きく広がります。
8畳の空間を8畳として使うのではなく、8畳の中にいくつもの居場所をつくる。
そう考えると、「部屋を増やすこと」と「暮らしを豊かにすること」は、必ずしも同じではないことが分かります。
良い家は、家の中だけで完結しない
そして、もう一つ大切なのが「家と外との関係」です。
堀部先生は、住宅をその敷地の中だけで完結するものではなく、周囲の町や自然、人との関係まで含めて考えています。
小さな家にすることで、敷地に少し余白が生まれる。
その余白に木を植える。
すると、庭ができる。
庭ができると、家の窓から見える風景が変わる。
隣の家との間にも、少しゆとりができる。
風が通り、光が入り、街の景色にも柔らかさが生まれる。
堀部先生は、小さな家について、家が町や周囲の自然へ広がり、つながっていくことの大切さを語っています。
これは、私たちも非常に大切にしたい考え方です。
家を敷地いっぱいにつくるのではなく、家と庭、そして周囲の環境までを一つの住まいとして考える。
そうすると、家の面積以上の広がりが生まれます。
「何をつくるか」より、「どう暮らしたいか」
家づくりを始めると、間取りや設備、キッチンやお風呂、収納など、決めることがたくさんあります。
でも、その前に一度立ち止まって考えてみたい。
「何畳のリビングがほしいですか?」
ではなく、
「家で、どんな時間を過ごしたいですか?」
と。
朝はどこでコーヒーを飲みたいのか。
休日はどこで本を読むのか。
家族はどこに集まるのか。
一人になりたいときは、どこに行くのか。
庭を眺める時間はあるのか。
季節の変化を感じられるのか。
10年後、20年後、子どもが巣立ったあとも、この家で心地よく暮らせるのか。
そうやって暮らしから考えていくと、「必要な家の大きさ」も少しずつ見えてきます。
大きな家ではなく、「豊かな家」を
伊礼智先生から学ぶのは、小さくすることで質を高めること。
堀部安嗣先生から学ぶのは、人の身体や時間、周囲の環境まで含めて住まいを考えること。
その二つを重ねていくと、私たちが大切にしたい住宅の姿が見えてきます。
必要以上に大きくしない。
けれど、窮屈にはしない。
家族が集まれる場所があり、一人になれる場所もある。
光が入り、風が通る。
庭があり、季節を感じられる。
素材に触れたときに、心地よいと思える。
冬は暖かく、夏は涼しい。
夜には、必要なところに必要な灯りがともる。
そして、何十年と暮らしたあとにも、
「この家をつくってよかった」
と思える。
それは、豪華な家ということではありません。
むしろ、必要なものを一つひとつ見極め、余計なものを削りながら、本当に大切なところにはきちんと手をかける。
そんな家なのだと思います。
家は、人生のための器です。
だからこそ私たちは、ただ大きな家をつくるのではなく、
「小さくても豊かに暮らせる、長く愛着を持って暮らせる家」
を考えていきたい。
面積では測れない豊かさを、一つひとつの住まいに込めていきたいと思っています。