設計作法
2026/05/16
【心落ち着く空間づくり】~木の家設計作法-其の566~
これから家づくりを始める方に、リビングダイニング空間のご希望をお伺いすると、
多くの方はなるべく広くとか開放的に、または天井を高くしたいという方がほとんどではないかと思います。
確かにリビングやダイニングは皆が集まる場所ですので、それなりの広さは必要だと思います。
しかし、ただやみくもに広く高くでは、逆に落ち着かない空間になってしまうことも多々あります。
もしかしたら、程よい距離感で、ある程度囲われた場所や、天井も高すぎないほうが、落ち着いたり、居心地がよく感じることもあります。
心落ち着く空間を設計する際、単に視覚的な美しさを追求するだけでなく、人間の五感や本能的な心地よさに働きかけるアプローチが重要です。
設計において核となるポイントをいくつか整理しました。
1. 「囲まれ感」と「抜け」のバランス
人は本能的に、背後を守られつつ前方を見渡せる空間に安らぎを感じます(プロスペクト・レフュージ理論)。
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ヌック(Nook)の活用: 階段下や部屋の隅に、あえて天井を低くした「こもれる」場所を作ります。
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視線の抜け: 窓の配置を工夫し、対角線上に視線が抜けるようにすることで、狭い空間でも圧迫感のない開放感を得られます。
2. 自然素材と経年変化の受容
触覚と視覚の両面で、自然素材は副交感神経を優位にします。
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無垢材と左官仕上げ: 木の調湿作用や、光を柔らかく反射する塗り壁は、室内の空気感そのものをまろやかにします。
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触れる場所の質感: 手摺り、床材、建具の取っ手など、直接身体が触れる部分にこだわることが、心理的な満足度に直結します。
3. 光のグラデーション(陰影の設計)
「明るすぎる空間」は緊張感を生むことがあります。
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低重心の照明: 天井のダウンライトを減らし、フロアランプやブラケットライトで低い位置に光を溜めます。
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間接光: 壁や天井を照らし、反射した柔らかい光で空間を満たすことで、奥行きと静寂が生まれます。
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自然光のコントロール: 障子やリネンカーテンを通した、移ろいを感じる光の取り込みが理想的です。
4. 外部環境との接続
室内だけで完結させず、外の風景や緑を生活に取り込みます。
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地窓と高窓: 隣家の視線を遮りつつ、庭の緑や空の青さを切り取る「ピクチャーウインドウ」を設けます。
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中間領域: 縁側や深い軒下のような、内でも外でもない空間を作ることで、自然との距離が縮まり、空間に奥行きが生まれます。
5. 身体感覚に馴染むスケール感
設計図上の数字よりも、実際の「居心地」を優先します。
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天井高のメリハリ: リビングは高く、ダイニングや寝室はあえて低く抑えるなど、用途に合わせて天井高を変えることで、空間にリズムと落ち着きが生まれます。
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動作のゆとり: 家事動線や生活動線にわずかな「ゆとり」を持たせることで、日常の所作が静かになります。
究極の「落ち着く空間」とは、住む人が自分の居場所を自由に選べる(ある時は窓辺、ある時は隅の椅子)という、選択肢の豊かさにあるのかもしれません。
これからも心落ち着く空間づくりについては1件1件追求していきたいと思います。
サン工房・スタジオ代表:袴田英保

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