2026/05/23
【内と外の境界をやさしく仕切る】~木の家設計作法-其の567~
格子(こうし)は、単に視線を遮る「壁」ではなく、光や風、そして気配を緩やかに通すことで、内と外を「やさしく仕切る」日本建築の知恵が詰まった装置です。
完全に閉ざすのではなく、曖昧な境界線をつくる格子には、空間を豊かにするいくつかの重要な役割があります。
1. 視覚的な「透け」と「隠し」のバランス
格子の最大の魅力は、見る角度によって表情が変わることです。
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正面から: 外の景色や光を室内に取り込み、開放感を与えます。
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斜めから: 格子同士が重なり合い、目隠しとしての機能が高まります。 これにより、外からの視線を遮りつつ、中にいる人は外の気配を感じられるという「安心感」と「開放感」の両立が可能になります。
2. 光と影の演出(陰翳礼讃)
格子を通り抜けて室内に落ちる影は、時間とともにその形を変えていきます。
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繊細なストライプ: 直射日光を細かく分断し、室内に柔らかな光の階調(グラデーション)を生み出します。
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情緒的な空間: 木の格子であれば、その質感が光を吸収・反射し、空間全体に温かみと落ち着きをもたらします。
3. 機能的な「フィルター」
格子は、物理的な境界としても非常に優秀なフィルターとして機能します。
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通風の確保: 窓を閉め切らずとも、防犯性を保ちながら風を通すことができます。
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距離感の調整: 道路に面した窓や玄関先に格子を一枚置くだけで、心理的な「奥ゆき」が生まれ、プライベートな空間が守られます。
4. 素材による表情の違い
「やさしく仕切る」ためには、素材の選定も重要です。
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杉や桧の無垢材: 経年変化とともに周囲の風景に馴染み、手触りからも柔らかさが伝わります。
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細い桟(さん): 桟を細く、ピッチを細かくすることで、より繊細な和の印象になります。
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太い格子: 重厚感が増し、より「守られている」という感覚を強めます。
と外を分断するのではなく、つなぎながら分ける。 そんな格子のある空間は、暮らしの中に四季の移ろいや外の世界の気配をそっと運び込み、住まう人の心を穏やかに整えてくれます。
これからもこのような格子を上手に使って内と外を柔らかく仕切っていきたいと思います。
サン工房・スタジオ代表:袴田英保

「幸漆の家・幸然の家」(現代町家の家・間口の狭い敷地の二世帯住宅)