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ブログ

設計作法

2026/06/12

【設計の引き出し】~ 木の家設計作法-其の570~

設計者としてデザインの引き出しはたくさん持っていなくてはならないと思います。

設計の引き出し(設計引き出し)を増やすことは、住まい手の抽象的な要望を具体的な形に落とし込み、空間の質を高めるために絶対に欠かせないプロセスです。

単に「おしゃれなディテールを集める」だけでなく、「機能・情緒・素材」が三位一体となったアイデアをどれだけストックできているかが、設計士の提案力に直結するのだと思います。

今回は住宅設計における「設計の引き出し」を、いくつかの切り口で整理しました。

1. 空間の広がりと心地よさを生む「重心」の引き出し

日本の住宅、特に木造住宅において「落ち着き」を演出するためには、視線と重心のコントロールが鍵になります。

  • 低重心の居場所(床座・小上がり・ダウンフロア)

    • あえてリビングの一部を300mm下げる、または小上がりにすることで、限られた面積でも天井を高く感じさせ、包み込まれるような安心感を生む。

  • 「視線の抜け」と「溜まり」の対比

    • 玄関から入った瞬間に地窓(ロ窓)越しに坪庭の緑が見える「抜け」をつくる一方で、リビングのソファに座ったときには外からの視線が完全に遮られる「溜まり」をつくる。

  • 垂れ壁・格子による「緩やかな分節」

    • 壁で空間を完全に仕切るのではなく、格子のスクリーンや天井の段差(見切り)、下がりの垂れ壁によって、光や気配を通しながらも空間の役割を優しく分ける。

2. 自然の豊かさを室内に取り込む「開口部」の引き出し

窓は単なる採光・通風の道具ではなく、外の景色(緑や空)を絵画のように切り取るフレームです。

  • 全開口引き込みサッシによる一体感

    • 大開口のサッシを壁の中に完全に引き込める構造(戸袋)にし、ウッドデッキ(軒下空間)と室内の床段差をなくすことで、内と外が完全に融け合う半屋外空間をつくる。

  • 「緑」を主役にする窓の配置

    • 高窓(ハイサイドライト)から空と樹木の梢だけを切り取ったり、地窓から足元の苔や草花を覗かせたりして、隣家の壁や電柱といった「ノイズ」を徹底的に隠す。

  • 軒の出と日射制御のディテール

    • 深い軒(900〜1200mm以上)を出すことで、夏の強烈な日差しを遮りつつ、冬の低い暖かな光を室内の奥まで引き込む。同時に、雨の日でも窓を開けて風を通せる安心感を与える。

3. 五感に響く「本物の素材」の引き出し

人工物にはない、経年変化(美しく古びる力)を持つ素材をどこにどう配置するかで、空間の「佇まい」が変わり五感全てで気持ち良さや心地良さを感じる。

  • 足裏で感じる素材の使い分け

    • 素足で触れる床には、柔らかく温かみのある杉や桧の無垢材、傷がつきにくく落ち着いた意匠にはナラやウォルナットなど、適材適所で樹種を使い分ける。

  • 光を柔らかく拡散させる壁面

    • ビニールクロスでは表現できない、職人の手仕事による塗り壁(珪藻土や漆喰)や、独特の陰影と吸放湿性を持つ和紙壁紙。これらにサイドから光(コーブ照明など)を当てることで、豊かな陰影を生み出す。

  • 異素材の「見切り」の美学

    • 木とタイル、木と鉄(アイアン)、無垢床と畳の職人の手による美しい納まり。見切り材をできるだけ細く、あるいはフラットに隠すことで、空間全体のノイズを減らし洗練させる。

4. 日常を豊かにする「用の美」の引き出し

機能的でありながら、生活感を隠し、美しく暮らすための造作アイデアです。

  • 「見せる」と「隠す」の黄金比

    • 生活感の出やすい家電やゴミ箱は、すべて引き戸のバックカウンター内に隠せるように設計する。一方で、お気に入りの器や緑を飾るための「一輪挿しが映える棚」や「飾り床」を空間のアイキャッチに設ける。

  • 居場所を兼ねた収納(ベンチ収納・窓辺の居場所)

    • 窓辺に少し広めの造作ベンチを設け、下部を大容量の収納にする。単なる収納家具ではなく、「読書や日向ぼっこができる特等席」としての役割を持たせる。

  • 間接照明による「夜の居心地」

    • 天井を直接照らすのではなく、壁面や足元、格子の背後に光源を仕込む。夜、器具そのものが見えない設計にすることで、旅館のような静けさとリラックス効果をもたらす優れた引き出しは、ただ施工例を見るだけでなく、「なぜこの空間は心地いいのか?」を五感で解剖することで身につきます。

  • 名作住宅や上質な旅館に泊まり、「天井高」「窓のサイズ」「座面の高さ」を実際にメジャーで測ってみる

  • 「和の伝統的な意匠(格子・障子)」を、現代のモダンなライフスタイルにどう翻訳できるか、常にディテール(納まり)をスケッチしておく。

このような設計の引き出しは、一朝一夕で身につくものではありません。

常にアンテナを張り、建築の専門誌で良いと思うものをスクラップしたり、

建築家の方が設計した建物や、寺院や神社などの歴史的建造物を見て、

スケッチしたり…自分なりに良いと思うものをたくさん見ることがとても大事です。

そのように引き出しを持っていると、ふとした時にアイデアが浮かぶものです。

よって、いつでも貪欲欲に勉強しなくてはならないと思っています。

サン工房・スタジオ代表:袴田英保

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