【場】~木の家設計作法-其の544~
かねてより日本の家には「場」と言い表すことができる、部屋や空間、場所の「よどみ」が多くありました。
そこは、何か特別な場所だけでなく、一見して簡素な空間であったり、何も無い空間に置物や家具があるだけの空間だったりします。
それらはおそらく、個々の生活や地域の伝統のようなものが、綿々と受け継がれたことによりできたものや、
茶の湯や生け花のように象徴や美意識が生活に浸透してできた場なのだと思います。
そのような静かなる「場」というものに着目して日本の民家をみるのも良いと思います。
日本の家における「場」とは、単なる空間の区切りではなく、人のふるまい・関係・時間の流れまで含めた“意味が宿る場所を指す概念です。
建築学・民俗学・生活文化の領域でよく使われ、特に日本の住まいでは次の特徴が際立ちます。
1. 「空間」ではなく「関係」を示す
日本の家は、間取りよりも 人と場所の関係 を重視します。
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「客を迎える場」
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「家族が食卓を囲む場」
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「一人で落ち着く場」
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「祈りや季節を感じる場」
こうした“使われ方”そのものが空間を規定します。
2. しなやかに変わる場
日本の伝統的な家は、ひとつの場が時間や状況で役割を変えることが多いです。
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昼は「居間」、夜は「寝る場」
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襖や障子で変形させる
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庭との連続で内外が曖昧に繋がる
「場」は固定ではなく、流動的で、用途が重層する性質を持ちます。
3. 自然や季節との関係で立ち上がる
日本の家は、光・風・気配・影・音といった自然要素を取り込み、その変化によって場が豊かに感じられます。
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朝、縁側に差し込む光が生む場
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風が通り、音が抜けていく場
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雨音を聞く場
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季節のしつらえを置く場
「自然の移ろいと共に立ち上がる場」は、日本的な住文化の大きな魅力です。
4. 心の“居場所”としての場
物理的な場所であると同時に、
安心できる・落ち着く・気持ちが整う
といった“心理的な場”の意味を持つのも、日本の家の特徴です。
たとえば:
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玄関の「迎え入れる場」
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囲炉裏・食卓の「家族のつながりを育む場」
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床の間の「精神性を感じる場」
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小さな書斎の「一人の静けさの場」
日本の家では、空間の機能以上に、気配や心地が重んじられます。
5. 「場」をつくるための要素
日本的な「場」は、以下の複合で生まれます。
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素材(木、紙、土、石)
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光・影の演出
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音・風の流れ
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使い手の行為
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家族や客との関係
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季節のしつらえ
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歴史や文化の文脈
日本の家の「場」とは空間に意味と関係と時間が積み重なったものだと思います。
そして家は単なる生活するための箱ではなく、人の暮らしがにじみ出る場所そのものです。
そのような観点で考えると、私たちの家づくりは住まい手が住んでいただいた後、家や庭の様々な場で行われる場面づくりだと思います。
サン工房・スタジオ代表:袴田英保

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