【住まいの設計者として】~木の家設計作法-其の558~
私たち住まいの設計者は、優れた観察者でなくてはなりません。
観察とは、住まい手たちの、暮らし、考え方、行動、仕草、こだわり、喜び、悲しみ、好き嫌いなどに共感したり、思いを巡らせたりしながら理解するという事です。
構造や設備、材料や性能のことに精通する表現者であることは勿論ですが、人々の生活の機微に対して確かな観察力と豊かな想像力を持ち合わせた、卓越した人間観察家でもありたいと思います。
住まいの設計者(建築家・設計担当者)として、図面を引く技術以上に大切なのは、そこに住む人の「人生の背景」に寄り添う覚悟だと思います。
単なる「箱」を作るのではなく、クライアントの日常を豊かにするための心がまえをまとめてみました。
1. 「暮らし」の観察者であること
設計者は、住まい手が言葉にできない潜在的な要望を汲み取る必要があります。
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「何をしたいか」より「どう過ごしたいか」: 「広いリビングが欲しい」という要望の裏には、「家族と程よい距離感でリラックスしたい」という本質的な願いが隠れていることがあります。
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日常の動線をリアルに想像する: 朝起きてから寝るまでのルーティン、ゴミ出しのルート、雨の日の洗濯物。ドラマチックな空間だけでなく、泥臭い日常をいかにストレスフリーにするかが設計する上で大事なことだと思います。
2. 「敷地の声」を聞く
建物は、土地(敷地)に根ざしています。その敷地に立って見えてくる様々な情報を細かくインプットすることは設計においてとても大事なことです。
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光・風・音の解析: 季節ごとの太陽の動きや、その土地特有の風の流れを読み解きます。
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周辺環境との対話: 隣家の窓の位置、通りからの視線、借景(外の景色を室内に取り込む)。土地が持つメリットを最大化し、デメリットを設計で解決するのが設計者としての大事な仕事だと思います。
3. 「普遍性」と「可変性」のバランス
家は数十年という長い年月を共に歩むものです。新築時の新しい綺麗な状況だけでなく、年月が経った時にどうなるかも想像し、ご提案することが大事です。
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経年変化を愛でる: 建てた時がピークではなく、時間が経つほどに味わいが増す素材やデザインを提案する。
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暮らし方の変化への対応: 子どもの成長、独立、老後。将来の間取り変更やバリアフリー化をあらかじめ見据えた「余白」を設計に組み込みます。
4. 予算という「制約」を「創造力」に変える
予算は無限ではありません。しかし、制約があるからこそ様々な設計の工夫が必要になってきます。
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優先順位の整理: どこにお金をかけ、どこを削るか。クライアントの価値観の核を見極め、コストパフォーマンスの高い提案を行います。
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誠実な対話: できないことを「できない」と言うだけでなく、別の方法でその目的を達成する代替案を出す強さを持つことが重要です。
5. 社会と環境に対する責任
一軒の家は、街並みの一部になります。よって常に街並みや周辺環境へ配慮したデザインが設計者には求められます。
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景観への配慮: 独りよがりなデザインではなく、周囲の環境と調和し、街の質を高める視点を持つことが大事です。
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環境性能と持続可能性: 断熱・気密性能を高め、エネルギー消費を抑える。これは単なるトレンドではなく、住む人の健康と未来を守る設計者の義務です。
「家を設計する」「家を建てる」とは、住まい手の人生に深く介入することになります。
その重みを自覚し、常に最新の技術を学びつつ、最後は「温かな人間味」を持って向き合うことが、何よりも大事なことかもしれません。
これからも社会に必要とされ、住まい手に最大限信頼される設計者、施工者になれるよう日々精進したいと思います。
サン工房・スタジオ代表:袴田英保

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